蚊の記憶力

蚊には記憶するという能力があるか否か。深夜に腹立たしく考える。今この部屋の中に、必ず1匹の蚊がいる。寝入りばなに頭上に「ぶうん」と来られて、こうなると私はもう眠れないので、すべての電気をつけ、うちわですべてのものを扇ぎつつ捜索を行なったのだが、ふわりと姿を見せたとたんにまた何処かへ消えた。その後、何度巡回しても、もはや音沙汰がない。寝ることを諦めて、こうしてパソコン前で自らが囮となり出現を待っているのだが、一向に姿を見せない。おそらく扇がれ煽られ、恐怖にかられて身を潜めているのだと思われる。


しかし。恐怖にかられて身を潜めるなどという上等なことが果たして蚊にできようか。恐怖にかられて身を潜めるには、恐怖を記憶できる脳が必要だ。あるのか。はて。誰か。


ミラノは蚊の町である。町外れの人工湖のせいというよりまず、かつてはベネツィアのように運河だらけだったところに蓋をしてできた町ゆえに、地面の下からわらわらと蚊が沸く。数年前に日本から網戸の網を運び、家中の穴という穴をすべて塞いだのだが、それでもシーズンが来ると寝付こうかというときに「ぶうん」だ。そして、このシーズンというのが3月から12月まで続くからたまらない。


お気づきかと思うが、私は今ひたすら囮と化し、時間をつぶすためだけにこれを書いている。二酸化炭素を多く出せば蚊もつられるかと呼吸を荒くしてみたりなどして。アホである。いい解決策はないものか。誰か。