夜2時以降に飲めなくなり...の波紋

去る10月6日から、伊国では「深夜2時以降に飲み屋やディスコ(伊国ではクラブとはいわないのである)でお酒を出してはいけません」という法律が施行されている。その当夜、ミラノから30kmほど離れた郊外のディスコに1時48分ごろ到着したわたしと友人Aは、入り口にでかでかと張り出されたこの告知に泡をくい、慌ててカウンターへ走ってとりあえず飲むもんを死守したわけだが、1杯あけたところで時間切れ、素面のまま踊る群衆の中に立ち尽くすという憂き目にあった。


酔っぱらい運転による死亡事故が多発しているがゆえの措置だと聞いている。正しい。しかし深夜2時の盛り場で、酒を飲まずに何をしろというのだ。して、ミラノの場合は、市街地で深夜営業をすると苦情が出るので、明け方までやっている踊り場の多くは郊外にある。当然、みんな車で来ている。そもそも、まわりを見回せば一目瞭然だが、打ち止めの深夜2時以前にすっかりできあがっている人がほとんどで、彼らだって車で帰路につくのだ。さらに、ディスコの入り口前には、サンドイッチやドリンクを売る屋台が深夜営業していて、あろうことかしっかりビールも売っている。飲もうと思えば飲めるのだ。ディスコの売上が落ち、屋台の売上が上がるというだけで、これぢゃ酔いどれたちの実態は何も変わらない。


実際、まず抗議に出たのは売上の落ちた盛り場の経営者たちだった。スノッブでお金のある飲みすけたちが集うミラノのコルソ・コモ地区には、抗議の意をこめて「首をつったマネキン」が掲げられたという。店によっては20%も売上が落ちたらしいが、集う人々はといえば、アルコールを持参したり、どこからともなく路上に出没するヤミ業者から買うなどして、あいかわらずの酔っぱらいぶりだったとか。コルソ・コモはミラノの市街地にあるが、ここ伊国では深夜2時には一部の例外を除いてすべての公共交通が終わっている。当然、彼らも車でおうちへ帰るのだ。ちなみにベルリンでは、飲みすけ対策として、週末は公共交通が終日運転をしている。


車でしか行けないようなところに盛り場をつくる許可を出しつつ「飲んだら乗るな」という。公共交通を早々に終業させておいて「飲んだら乗るな」という。そして法律を掲げておきながら、飲もうと思ったらいくらでも飲める抜け道は「見なかったことにする」。常に対症療法のみで抜本的な改革をしない。伊国なのである。