フルコース完走

伊国北部で今日の夕焼けを見た人とは、互いに名前など知らなくてもお友達になれるかもしれない。とりわけ日が沈んでからの空の燃えっぷりは尋常ではなく、焼ける雲の連なりは3次元の広がりをみせ、炎の赤しか存在していない新たな世界が「そこ」に開けているかのようだった。ピエモンテからミラノへ高速道路を超速で飛ばす車の窓からみた幸運。


伊友人(雌)の誕生祝いの昼ご飯をすべく、総勢5人でピエモンテはアスティ近くのミリアンドロという小さな小さな町へ逝ってきた。ワインやキノコやトリュフで有名な地域だが、目的地はかつて友人が「たまたま入った」という村のオステリア(食堂)だ。ただ昼ご飯を食べるために130kmも移動するのは酔狂だが、おいしく安いものの多くは田舎にある。とりわけ食に感して郷土色の濃いこの伊国では、移動すればそれだけ普段は味わえないものが食せる。そして蛇足ながら「食べる」を目的にすると、私のモチベーションは一気に上がる。


さておき。辿り着いたそのオステリア(食堂)で、わたしは伊国に来てはじめてフルコースを完走した。フルコースというとなんだかエレガントだが要は「食前酒-前菜-パスタ-メイン-デザート-コーヒー-食後酒」という道のりを余すところなく走ったということだ。言葉にすると1行だが、これはなまなかな胃袋ではできない。しかし。本当においしかったのだ。して、それだけ食べて飲んで「22ユーロ」。食事をしながら赤ワインだって飲んでいるのに「22ユーロ」。都市部では絶対にありえない。


旅行先として伊国はリピーターが多い国だが、ひとしきり観光をしてしまった方々は、「車をチャーターして田舎町へごはんを食べにいく」なんて企画をするのもきっと愉しい。正しいお店をちゃんと調べいけば、言葉がわからなくったってメニューをえいやと指差せば、必ずおいしいものが出て来る(そもそもメニューに並んでいる料理名は、店ごとに適当な名前をつけてたりするから、言葉ができてもわからんことが多いのだ)。


地元のおっちゃんおばちゃんや、子供連れて犬まで連れた家族なんかとテーブルを並べて、Tシャツ&ジーンズで、時間を気にせずだららだららと食らい飲む。あっちでは牛が鳴いてたり、こっちではアヒルが鳴いてたり。少し車を走らせるだけでも、伊国のまた別な顔がみえてくる。