ジェントル.シティ.ランキング

 1.両手が荷物でふさがっている人が扉を開けようとしていたら?
 2.近くの人が書類を道にばらまいてしまったら?
 3.店で何か買ったときレジの店員は「ありがとう」を言うか? 


そんな実地調査を米国の雑誌「Reader's Digest」が行ったという。今日7日のレップブリカ紙の付録雑誌「IL VENERDI」がその結果を特集として取り上げていた。Reader's Digestは世界の主要35都市で、各2人の現地記者を使って、上の3パタンのテストを、街なかでテスト対象を変えながらそれぞれ20回ずつ繰り返し「どんだけ人々が親切か」のパーセンテージをとったという。ご苦労なことである。


結果、いちばん人々が親切だったのはなんとN.Y.だったそうな。つまり、
 1.扉を開けて、その人を通してあげる
 2.拾ってあげる
 3.「ありがとう」と言う
という行動に出た人の数が一番多かったのがN.Y.だったということだ。3つのテストの総合結果で「80%がジェントルマン」という数字が出ている。2位がチューリッヒで77%、3位がトロントで70%、以下、ベルリン、サンパオロ、ザグレブオークランド...と続く。ちなみに伊国のテスト都市はミラノで23位47%。半分の人は手を差し伸べるが半分の人は知らんぷり...これはわたしの実体験とも大体一致する。


さて。興味深かったのはアジアの都市のランキングが一様に低いこと。バンコク、ホンコン、ジャカルタ、タイペイ、シンガポール、ソウル、クアラルンプール、ボンベイはいずれも35都市中の「ワースト10」に入っている。そしてなーぜか。東京がない。ニポンはこのテストの対象外とされたようなのである。なぜかは知らないがおそらく現地記者が忙しかったとか、そういう現実的な理由からだろう。となるとこのテストがどこまで真剣に行われたものかやや疑問が残るが、さておき、同じテストを東京でやっていたらどんな結果が出ただろう。


東京の「どこ」でやるかにも大きく左右されるだろうが、私感では東京も他のアジアの都市と同様に下位に甘んじたような気がする。今のニポンが「どんなことになっているか」を肌で感じられるところに私はいないので、その内実をとやかく言うつもりはない。ただ単に、誉められるべきマナーというのはトコロ変われば変わり、欧米の「ジェントルマン」と日本の「親切な人」の間には微妙に温度差がある。だから米国の雑誌がはかる「親切度」で、アジア諸国が上位にこないのは当然という気もするからだ。


けれどもこの話のオチとして、ひとつだけ言ってしまいたい。マナーというのはトコロ変われば変わるわけで、伊国に来れば伊国の人々が「これがふつうだ」と信じているマナーというのがある。よくガイドブックには「店に入るときは挨拶をしましょう」などというアドバイスが書いてあるがそれだけではない。たとえばここ伊国では、食卓での飲み物は「男が女につぐ」もしくは「みんなそれぞれ手酌する」のがふつうだ。ドアを開けるとき、男女連れなら「男が開けて女を通してやる」のがふつうだ。相合い傘は「男が持つ」のがふつうだ。


それらはたしかに「男の側の自意識を満足させるためだけの行為」「大時代的な発想」かもしれないが、いずれにせよここ伊国ではそれがまだ「まあふつう」ということで通っている。つまり、日本の殿方が伊国で伊国通を気どりたいのであれば、伊国製の高価なスーツを着るだけじゃダメなのだ。ミラノ仕立てのスーツを着て、フィレンツェの工房の靴を履き、空のグラスに気づかない女を気が利かないと叱り、開けてもらったドアをふんぞり返って通り、女のさしかける傘の下に入るような殿方は、ここ伊国では「ものすごく格好が悪い」と見られても仕方がないのである。


別に頭の中に具体的な個人があって言っているわけではない。また、格好いいばかりがいいわけでは決してない。ただ「世界はそういうふうにまわっている」ということである。


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