移民法と治安法改正の行方

久しぶりに戻って来たらば、伊国はますますおかしなことになっていた。北部同盟の内務大臣ロベルト・マローニが吠えている。スペインをはじめユーロからもアムネスティからも叩かれた移民法と治安法の一部改正(改悪?)が取りざたされているが、法案が通れば、

  • 不法滞在は現行犯逮捕ができ、略式裁判の後に6ヶ月から4年の禁固刑
  • 別件逮捕された者が不法滞在者の場合、刑が重くなる
  • 差し押さえられた模造商品は破棄
  • 不法滞在者に家を貸した場合は、当物件の没収と家主に3年までの禁固刑
  • 公衆のモラルを乱すとみなされた売春婦は、その場で郷里-祖国へ強制送還命令を発令


などなどが施行体勢に入る。すでに年初から、ローマ、ナポリ、ミラノといった大都市では、警察と軍とが手を結んでジプシー居住地が一掃され、ミラノのバスの中では切符の検札を表向きの理由に異人に滞在許可証の提示を求めるといったことが行なわれ、また、ローマやフィレンツェでは「更新申請した滞在許可証の発行を待っていた」にも関わらず、いきなり国外退去を命じられた日本人もいると聞く。不備のない正当な許可申請への返答に「1年以上」もかけているのは、ほかならぬ伊人であるのに。


もちろん、この傾向に全伊人が賛成しているわけではない。仕事のある新天地を求めて、一夜にして400人もの人々がすし詰めの船で着岸する当国だ。そういった現状に、この法案は見合っていないと野党や司法やバチカンや人権団体は異を唱えている。


この国では、もはや移民はスケープゴートだ。総選挙までは「その撲滅」を選挙運動のキャンペーンに使われ、右派の勝利後は、国内の治安の乱れのみならず経済の低迷までが移民のせいにされ、それを駆逐することで右派はヒーロー像を獲得している。たしかに悪者をたてればわかりやすいし、移民は「仕立てやすい」悪者だ。けれども、当然のことながら、不法滞在者を工事現場で安く働かせて最終的に富を得ているのは伊人であり、90%以上が異人だというこの国の売春婦(夫)を仕切る組織と結託して、それでうまい飯を食っているのも伊国の犯罪組織であるのは周知のこと。その事実に目をつむり「悪い人たちをやっつけよう」というわかりやすいメッセージを発する政府に、無知で純粋な伊国大衆までもが流されませんように。いち移民としては祈るばかりだ。