日蝕

これはあくまでも個人的な趣味だけれども、まず漢字表記の多用に無理を感じた。古色を出すためか雰囲気を出すためかよくわからないが、もちろんそのために漢字表記を意図的に多用するのも素敵だが(たとえば京極夏彦とか倉橋由美子とか)、なぜこの内容でこの語り口でそれをしなければいけなかったのかがよくわからない。


直前に読んだ「鏡の影」と似ていると言われればそう、似ていないと言えば似ていないが、読後の私の頭の中では、登場人物と物語の流れが両者入り交じりぐちゃぐちゃになった。ともあれ、読後に満腹感を覚えつつ、言葉でうまく言えない「何か」を感じてもどかしく物語を反芻したのは、わたしの場合は「鏡の影」のほうであった。無理矢理いえば、佐藤亜紀氏の小説は、すっきりとしたわかりやすい結論を出すことを避け、読後に読者の頭がまわりはじめることを促すものである気がする。少なくとも、だから私には愉しい。