金欠人のカーニバル

この時期は町中が紙吹雪だらけになる。カーニバルである。うっかりスーツ姿で大聖堂前の広場など歩いてしまうと、スプレーを持ったガキどもの標的になる。カーニバルである。ニポン語にすると謝肉祭。伊国ではベネツィアやビアレッジョが有名ですね。


ただ、訳してみたところで、ニポンには謝肉祭を祝うなどという習慣がないゆえ「なんじゃそりゃ」てな印象は拭い去れず。ざっくり言うと「肉食が禁じられる四旬節という斎戒期の前に、お肉に別れを惜しみましょう」というカトリックの非公式行事なわけですが、この期間はいわゆる無礼講が許され、仮装して山車だしてみんながパーになる。


そんなわけで、わたしたちもカーニバルを言い訳にパーになることにした。しかし。「わたしたち」のなかに豪華なパーティができる輩はいない。1ユーロ10セントの高速代を4人で割りつつ、レニャーノというミラノ郊外の街の「一旦登録しとけば入場タダ」のディスコへ。当地で待ち構えていた友人(雌)は、2.5ユーロで買ったという怪しげな青髪のカツラをかぶり、手作りだという超ミニドレスはよく見るとパンパース製。おお。して、それぞれがおもむろに持参したビンやカンをのそのそと取り出す。体内の「アセトアルデヒド脱水素酵素2型」がおそらく異常に多い彼らはいたって不経済で、1杯5ユーロでは酔っぱらうまでにいくらかかるかわからない。だからして、飲み物は自前である。缶ビールがまわってくる。シャンパンがまわってくる。ペットボトル入りのスクリュードライバーがまわってくる。オレンジ色のなんだかわからないものがまわってくる。目が。まわる。3時間後、一人残らず見事に正気を失い、顔はワケのわからない塗料でぐちゃぐちゃで、つまりわたしたちはカーニバルを正しく祝ったわけである。


「カーニバル」などと聞くと、異国のクリスチャンのなんだか由緒正しき情熱的かつロマンチックなものを思い浮かべるかもしれないが、舞台裏はそんなもんである。横文字コトバに騙されてはいけませんぜ。