ヴェネツィア 私のシンデレラ物語

有名人が書いた自伝的エッセイには大概むかつく。「おおっぴらにではないけど結局は自慢話」というその謙虚さを装った見て見て根性、羽を半分閉じかけた孔雀のような雰囲気がハナにつくのである。だからこの本も、巨匠の薦めがなければ「絶対に」手に取らなかった、ページを開いてみることすら避けただろう。大体がタイトルからして「シンデレラ物語」である。万歳。


しかし。読んでみるとこれが「むかつく半歩手前」まではいくのだが、不思議と腹がたつには至らない。おそらくいい編集者がついていたのだろう。あとは、この著者、かなり変わった人生を送っているにも関わらず、その言及の仕方がさらりとしているのだ。「3年の間に3度名字が変わった」という事態がまるで「髪型を3回変えた」ぐらいの軽さで、「フェラーリ・ディノを買ってもらった」ということが、まるで「コーヒー1杯おごってもらった」ぐらいの素っ気なさで描かれている。半端に個性的な小金持ほど、自分の変わりぶり金持ちぶりをひけらかしたがるが、おそらく彼女は、本当に数奇な人生を送った本当の金持ちなのだろう。


1960年代に奨学生としてハープの勉強をしにヴェネツィアへと渡り、大富豪に見初められて結婚、旦那の死後に一族の遺産争いに巻き込まれ、10年に及ぶ民事-刑事裁判を「伊国で」体験した彼女。ドラマのような大げさなお話だが、それでもここ伊国では「さもありなん」だと私などはすんなり受け止めた。だからまずは伊国に住むニポン人にぜひ読んでもらいたい。
ベネツィア 私のシンデレラ物語
チェスキーナ洋子著/草思社/2003年/1470円/ISBN-10:4794211996