答えられません

異国で暮らしているとよく聞かれる。「あなたはここで何がしたいの?」。異国人からも同国人からも聞かれる。同国人から聞かれる場合、この質問は、ほぼ100%「あなたはここで(最終的に)どんな仕事がしたいの」という意味で発せられる。が、この質問にうまく答えられたことは一度もない。答えようがないからだ。そすると、変な顔をされることが多い。説教されることも多い。まるで異国で暮らすには目標がないといけないかのようだ。


世間に公表してみせるような目標などないが、ゴージャスな生活もしていないが、そこそこ楽しく暮らしている。働いて、食べて、笑って、寝る。笑って、働いて、食べて、寝る。笑って、食べて、寝て、働く。それができている間は、おそらくわたしの頭の中には目標などという文字は浮かんでこない。つまるところ、どんな在りようであれ「とりあえず」「本人が」「足りていれば」誰しもそれで十分だとわたしはおもう。謙虚な気持ちさえ忘れなければ。いろんなことを言う人は言うが、いずれ他人がとやかく言う問題ではない。


同じように「何処で生きて逝くの?」という質問にも答えられない。噛み砕けばこれは「伊国にずっといるのかニポンへ帰るのか」という質問だ。そんなのもまた自分の思惑ばかりでなく、環境や状況が決めるものだとわたしはおもう。


ただひとつ「誰と関わりあいながら生きていきたいか」という質問にはかろうじて答えられる気がする。自分のやっていること、暮らす場所、タイミング等々によって顔ぶれは変われど、何をするでも、どこにいても、どんなときでも、(あらゆる意味で)おもしろい人々と関わっていたいとおもう。そういう関係性を探し-持続することにだけは貪欲でありたい。だからたとえば「こいつと仕事がしたい!」と思ったとき、かの人に「スカンジナビアで水産会社をつくろう」などと誘われたら、わたしはきっとホイホイ行くだろう。「なに」や「どこ」が「だれと」で決まる。ヒトはいろいろなので、そんなヒトがいたっていいだろう。


今日、伊国の滞在許可証の更新をしてきた。これで法的にはまた1年、ここでの滞在が許されたことになる。これまでに出会ったおもしろい人々との関係がどういうかたちで続いていくのか、そしてどんなおもしろい人々との新たな出会いがあるか、楽しみだ。